Thames and I ②

『テムズとともに』翻訳のお手伝いをするにあたっては、まず自分自身で原作の本を手に入れるところから始めました。サー・ヒューからコピーをもらうこともできたのですが、やっぱり雰囲気から入りたいですからね。ところが、学習院出版でもアマゾンでも、全然見つからないんですよこれが。やっとのことで楽天市場に出ていた古本を1冊見つけ、すかさず購入しました。1/20分の日記に写真を貼りましたが、黄色い表紙の新書です。
第1章はイギリス滞在の最初の10日間、第2章はホール邸でのご滞在のこと、第3章から8章までの150ページ近くがオックスフォードでの日々について。オックスフォードのことも、ご自身の学生生活に関することはもとより、オックスフォード大学の歴史、ご自身の運河に関する研究について、大学のスポーツや音楽のこと、色々書いていらっしゃいます。第9章では2年の間のイギリス国外へのご行幸について、そして終章として2年間を振り返る、という構成です。あとがきまで含めると216ページにもなります。
この御本を読んで、皇太子殿下は、まじめで、素直で、穏やかな性格の方なのだろうなぁと、そしてさぞやイギリスでの生活を楽しまれたのであろうと思いました。
オックスフォードはマートン・カレッジに在籍されていたのですが、そのマートンでの初日に入ったカレッジのバーで個性的な服装をした女性を見て、
「とっさに私は、これは大変なところに来たと思った」そうです。
初めてコイン・ランドリーを使った時は洗い物を詰め込みすぎて洗濯室一面に泡があふれてしまったが、その場にいた学生とはその後もつきあう友人になれたので「洪水の収穫であろう」とお書きになる。
日本から来た観光客に目の前で「ウッソー!」と言われ「どう反応していいか迷った」とは至極正直なご感想です。
雨の日にお気に入りの傘が盗まれてしまい、残念だったが、「誰かが濡れずに帰ったのだと思えば、まあそれなりの貢献をしたことにもなろう」だなんて・・・なんて心の広い。
2年の間にご家族全員(天皇皇后両陛下、秋篠宮様紀宮様)が、それぞれ別々にだけれどオックスフォードを訪ねてくれて「自分の生活している場所を案内できたことは大きな喜びであった」そうです。
仲間と行ったディスコの「騒音は聞きしに勝るもの」で、ロイヤル・アスコットの競馬では、わずか1ポンドだけれど「生まれて初めて馬券を買い賭けてみたが、見事に失敗した」と、おそらく日本ではなかなか機会もないであろう色々な体験をなさっていて、そうしたことのすべてを楽しんで前向きに受け止めていらっしゃる様子が伝わってきます。
15世紀に建てられたチャペルの古い塔では「上からオックスフォードの景色をほしいままにできるが、螺旋状の階段を上下すれば、衣服は歴史のほこりにまみれてしまう」などといったウィットに富んだ表現もそこここに。

でも、先述のディスコも「生涯最初で最後のディスコであったかもしれない」とおっしゃっているし、離英直前には「再びオックスフォードを訪れるときは、今のように自由な一学生としてこの町を見て回ることはできないであろう。おそらく町そのものは今後も変わらないが、変わるのは自分の立場であろうなどと考えると、妙な焦燥感におそわれ、いっそこのまま時間が止まってくれたらなどと考えてしまう」と回想されています。
なんか切ないじゃないですか。
これが最初で最後だ、このまま自由でいれたらいいけど、でも無理なんだ・・・と思って。そしてそれを率直に書いていらっしゃる。想像していたよりも、ずっと私たちに近い、普通の感性をお持ちなんじゃないでしょうか。
この本を読んだら、殿下に、ひいては皇室に親近感を持つ人が確実に増えると思います。宮内庁はこういう御本こそもっと大々的に売り出せばいいのに、と思うんですけどねぇ。でもこの『テムズとともに』は、もともと限定印刷だったそうで、私が持っているのは第四刷ですが、今は絶版らしいです。残念ですね。
英語版でもいいから読みたいわ!という方は、こちらからお取り寄せ、ですかね・・・
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※文中の「 」でくくった文章はすべて、徳仁親王『テムズとともに 英国の二年間』(学習院、1993)から引用させていただきました。