Thames and I ①

akiko_uk2006-01-20

皇太子殿下のご著書『テムズとともに 英国の二年間』(学習院教養新書)の英訳版『Thames and I』が、ついに先月イギリスで出版されました!
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写真は、黄色い新書が日本語の原作、それより大きい水色の表紙が英語版です。

翻訳者は、元駐日大使のSir Hugh Cortazzi。我々はだいたい「サー・ヒュー」とお呼びしています。サーの称号にはファーストネームで良いんだそうです。
そしてなぜ私がこの出版を喜んでいるかといいますと、サー・ヒューの翻訳作業をお手伝いしたからなんです(なので「翻訳者からのメッセージ」のページに名前を出して下さいました)。
去年2月頃、サー・ヒューはうちの事務所の所長に「誰か手伝ってくれる人はいないか」と相談を持ちかけました。なんでも「皇太子と同年代の、日本語ネイティブが良い」とおっしゃったらしいのですが・・・私、同年代ではない、と自負しております・・・殿下とは11歳違いますから・・・。でも翻訳自体はアルバイトも含め色々と学生時代からやってましたから、面白いかなぁと思ってお引き受けしました。あ、でも今回のお仕事は完全な無償です。
私の仕事は、サー・ヒューが英訳した文を日本語の原文と照らし合わせ、誤訳などがないかどうかチェックすることでした。全体の雰囲気をつかむために、最初に原文を一度通しで読んでいますが、それでも作業はけっこう時間がかかります。段落やページ単位で区切って、日本語を読み、次いで該当する英訳を読む。たまに「ここではこういうことがおっしゃりたかったのでは」「これは意味が違うかも」というところが見つかるので、後でまとめてサー・ヒューに連絡。この繰り返しでしたが、何が大変だったかというと、サー・ヒューの作業の速さに追いつくことです!80歳を過ぎたとはいえ、とてもパワフルで日本語がめちゃめちゃできる方です。それに、もう引退された御身なので、失礼ながらお時間がたっぷりあります。そんなわけで、何度かお上品な督促も受けつつ、いくつかの週末を家にこもりつつ、なんとか作業を終えた時には、達成感もありましたが、それ以上にちょっとさみしい感じが残りました。なんだかんだ言って、楽しかったですから。それにサー・ヒューの英訳を拝見するだけで本当に勉強になりました。なるほど、こういう言い回しがあるのか、とか。実際、サー・ヒューは、翻訳調ではなくできる限り自然な英語になるよう努力した、とおっしゃっていました。
ご自分でもネタにしているから差し支えないと思いますが、日本語上級者・サー・ヒューでもつまづいてしまう表現があったんですね。印象に残っているのは、
「○○が風景に花を添えていた」→「... and flowers were blooming」
「(階段の途中には)踊り場があって」→「there was a dancing place ...」
ちなみに踊り場の正しい訳語はstaircase landingやhalfpaceと言うそうです。

翻訳が終わったのは去年5月。出版目標は、クリスマスのプレゼントにできるように、ということで11月になっていました。半年もあれば余裕でしょう?と思いきや、最大の難関が。それは日本の宮内庁から出版の許可を受けることでした。そうです、出版する場所は遠く離れたイギリスでも、やはりご許可をいただくことが必要でした。
本当は翻訳作業の許可を待つことだけで10年かかったのだそうです。それだけ時間をかけても実現させるサー・ヒューの執念もすごいものがありますが、やはりと言うべきか、お堅いお役所の中でももっとも堅そうな宮内庁、そう簡単にはOKしてくれませんでした。当初はサー・ヒューご本人⇔宮内庁長官、その後在英日本大使館宮内庁担当者というルートでやりとりをなさっていて、私自身がその渦中に入ることはありませんでしたが、折々にサー・ヒューから状況を聞く度に、よくもまぁこんな心配まで思いつくなぁ、と思ってしまうような細かい質問や注文があったり、長いこと回答がなかったり、更に大使館で間に入って下さった方の説明が要領を得ていなくて更に事態がややこしくなったり。サー・ヒューも何度かはぶちキレていたと思われます。
ただ、宮内庁の許可を待つ間にいくつか良いこともありました。チャールズ皇太子、そして皇太子殿下ご自身がメッセージをお寄せ下さったこと。これはこの本にとって大きな価値を与えて下さったと思います。
宮内庁の許可が下りたのが昨年11月。それから本が完成したのが11月下旬で、12月半ばには英国日本商工会議所が出版記念レセプションを開いて下さって、私も呼んでいただきました。その時、ホール大佐(殿下がイギリスで最初にホームステイをされたお宅がホール邸です)が声をかけてくれましたが、長らく本の中でしか知らなかった方の実物にお会いできて、感激でした。

そういえばこの本のことは去年の4月にも一度触れていましたね。
ケンブリッジへ半日 - akiko_ukのロンドン日記

<めずらしく、翌日に続けて書きます>