Maida Vale & The Sun

maida vale

お昼過ぎ、同僚の女性と一緒にMaida Valeメイダ・ヴェールへ。☆写真はそこで撮影。
このエリアは、カムデン方面へとつながる運河が通っていて、たくさんの船や周辺の家並みが独特の美しい景色を作っており、リトル・ヴェニスとも呼ばれている。たしかに、ロンドンの他のどの場所とも違う雰囲気がある。
運河沿いのWaterwayという名のカフェで軽くランチ。メインは大きな水差しに入ったサングリア。2人でこれを空けたのでけっこう酔っ払いました。
運河沿いにぶらぶらと歩きながらパディントン方面へ。偶然見つけたThe Union(Unit 4, Sheldon Square, Paddington W2 6EZ)というカフェのようなパブがとっても素敵な雰囲気だったので、ここに入ってカフェオレを飲む。テラスにそのままつながる窓際に大きなソファがあり、そこに半分寝ころがるようにしておしゃべりしながらだらっと時間を過ごす。途中、イギリス人の男女3人組が「ここ座ってもいい?」とやってきた。大きなローテーブルを挟んで配置してあるソファのひとつを私たちが占領していたが、彼らはその向かいのソファを指している。ちなみにこの時、広い店内はガラ空き。にもかかわらずあえてここに来るとは?でもその人懐こいところに好感が持てたので、「ここ、いちばん良い場所ですもんね。どうぞどうぞ」と了解する。しかしこのカフェ、雰囲気といい空き具合といい、本当に穴場だ。また来よう。
夜は近所の映画館で『The Sun』を見る。アレクサンドル・ソクーロフ監督の、昭和天皇が主人公の映画だ。日本では公開の目処がたっていないと聞いていたので、それにソクーロフ監督は以前基金で日本に招待したことがあったり、映画制作に助成したこともあるので、何か気になって見ようと思っていたのだ。
イッセー尾形さんの昭和天皇。最初はあくまでもイッセー尾形さんにしか見えなかったが、そのうちだんだんと昭和天皇そっくりに見えてきた。そういえばこういう感じだったっけ、と昔テレビなどで見たことのある陛下のお姿を思い出した。
戦争末期のある1日の描写から映画は始まる。その後、アメリカ軍の迎えが来てマッカーサー元帥との面会に出かけるシーンになってちょっと混乱した。あれ、いつの間に戦争が終わったんだ?と。日本人にとっては終戦の象徴ともいえる玉音放送も、奪取の危機もあったという録音盤のエピソードも、とにかく終戦に関するシーンが一切なかったので、境目がよくわからなかったのだ。
全編を通じて思ったのは「これ、どこまで事実に基づいているんだろう」ということである。昭和天皇が最初に連合国軍司令部に連れてゆかれる時、車に乗る際の若いアメリカ兵のエスコートが極めてぞんざいである。唯一のお付は鈴木総理(たぶん)だが、その総理も元帥の部屋の手前で「MP」というヘルメットをかぶった若者に手で押し戻される。こんな非礼な奴らばっかりだったんだろうか。昭和天皇マッカーサーとの会談では、日系アメリカ人と思しき軍人が通訳らしき役目として登場する。アメリカ人なのにやっぱり日系だからなのか、天皇に対する畏敬の念と陛下をぞんざいに扱うマッカーサーに対する怒りで一杯一杯になってしまい、天皇のお言葉を思いっきり意訳してしまうなど、肝心の通訳業務が全然できていないという不思議な登場人物だった。こんな人、本当にいたんだろうか。天皇マッカーサーはけっこうな時間をサシで、しかも英語で会話する。本当にこんな感じだったんだろうか。私自身は昭和天皇が英語でお話しになるところをお聞きした記憶がないのでよくわからない。
まぁしかし、歴史上実在した人物であっても、映画になる時点で何らかの脚色は避けられない。それこそソクーロフ監督も別の作品でとりあげたヒトラーなんて、映画でも舞台でも何度も何度も取り上げられ、監督や演じる役者の数だけ少しずつ違ったヒトラー像が世に出されている。それを思えば、昭和天皇のことだけを事実に忠実でないのはおかしい、とは言っていられない。今まで一度もこうしたかたちで取り上げられたことがないので、私自身まだ免疫がないだけなのだ。
全体としてはとても静かで内向的で、少しユーモアもあり、見て損した気にはならない作品だと思った。ソクーロフ監督のウェブサイトにこの作品に関するインタビュー録があったのでどうぞ↓
http://www.sokurov.spb.ru/island_en/feature_films/sun/mnp_sun.html