フランスを旅行してきました 4

Merry Christmas

ソワレ(イブニング上映)は、男性はブラックタイ、女性もドレス着用と決められていて、上映後にはパーティが必ずといっていいほど催される。上映もパーティも、入場券や招待状がなければ入ることはできない。私達が友人にとってもらった入場券はそれ1枚のみで入場が可能だが、映画祭のIDカードを持っていないと使えない券もあり、入り口付近で「ID持ってたら取り替えて!!」という人が何人もいた。ちゃんと正装していたが、あれでチケットの都合がつかなかったらどうするのだろう。

メインゲスト以外の入場が午後8時過ぎに終わり、スクリーンには赤じゅうたんの上の出演者や監督たちが映し出される。少しずつ近づいてきて、そして映像の続きがそのまま上映会場へ。バグパイプ奏者の先導でゆっくり入場してくるゲストたちを、私達観客は総立ちの拍手で迎える。ん?バグパイプ?服装はどう見てもスコットランドの伝統衣装だが・・・。その理由は映画を見てわかった。
『Merry Christmas』(仏題Joyeux Noel)は、フランス・ドイツ・ベルギー・ルーマニアの合作。第一次世界大戦の最中の1914年、ドイツ軍、フランス軍フランス軍を支援するイギリス軍(部隊丸ごとがスコットランド軍で、軍服もイングランド軍とは異なると思う)、が相対峙するフランスの農村地帯にある前線で、クリスマスイブとその日を境に起きた出来事を描く作品だ。設定はシリアスだが、台詞の端々にユーモアがあり、国籍を超えてクリスマスを祝い交流する感動的な話であり、痛烈な戦争批判の話でもある。静かな感動が余韻として残った。
日本では年末に公開される見込み、イギリスでは配給がまだつかないというが、ぜひ実際に見ていただきたい。よって詳しくは説明しないが、クリスマスを祝うために前線が休戦し、兵士たちが交流し、親睦を深めたというのは実話なのだそうだ。しかも、1ヶ所だけではなく、あちこちの前線で起きたという。技術の進歩により、コンピュータで相手を狙い夜間でも攻撃ができる今日では、もう起き得ないことかもしれない。第一次世界大戦は、まだ相手の顔が実際に見える戦争の時代だったのだ、と思う。
そして人々の心をつなぐのは、音楽であり、同じ宗教を信仰する心だった。バグパイプも重要な役目を果たす。スコットランド軍に従軍していた神父(ギャリー・ルイス。『リトル・ダンサー』の父親役を演じた人)が厳冬のクリスマスイブに3カ国共同のミサを執り行う。ラテン語で唱える言葉に対し全員がラテン語で応じると、神父に驚きと感動の表情がよぎる。その心情がとてもよく伝わってきた。
ドイツのオペラ歌手の役としてダイアン・クルーガー(独)が紅一点の主役。美しい人だった。フランス軍を指揮する将校役のGuillaume Canet(ギョーム・キャネ、と読むのでしょうか)は彼女の実生活での夫なのだそうだ。ドイツ軍将校役のDaniel Bruhl(ダニエル・ブルール)は、映画ではヒゲをはやしているが、映画祭ではきれいさっぱりヒゲを落としてお肌がツルツル、ほんとは若かったのね、と思う。それにとってもカッコイイ!国際的にはまだ名前は売れていないようだが、絶対オススメな俳優さんだ。でもドイツ映画ってあんまり見ないからなあ。また多国籍映画に出てほしい!!
午後10時半頃、映画の上映が終わり、ゆっくりと会場の外へ出る。この後、作品主催のパーティがあり、ヘラルドの友人が私達の分の招待券を手配してくれていた。会場の外から彼と携帯で連絡を取ると、なんと、上映会場のまん前から、俳優や関係者がぞくぞくと映画祭の公用車に乗って出ていく、その最後尾の車に乗せてくれた!彼の先導で、ガードマンたちのチェックも「関係者だから」の一言と招待状で潜り抜け、普通は近くにすら近づけないその乗り場所から車に乗り込んでパーティ会場へと向かう。同乗させてもらったのは、この作品のコーディネーターだったフランス人のおじさん。友人とはファーストネームで呼び合い、公開時期をいつにするか、日本での公開タイトルをどうするか、という話をふたりでしていた。なんてカッコイイんでしょう。
パーティ会場は山の中腹にあるシャトー(らしい)の庭。木々にはクリスマスツリーのような電飾がつき、通路には雪に見立てた白い粉(塩?)がまいてある。映画にちなんで、なかなか凝った演出だ。
別に乾杯やら挨拶やらもなく、出席者はおもむろに飲み、おつまみを食べ、そして語りまくる。ここにいる人々がどういった縁でここにいるのか、本当に映画の関係者なのか怪しい人も少なからずいる(including私と友人の日本人女性2名)。カンヌのパーティっていうのは相変わらずこういうものなんだなと思う。とはいえ、俳優さんたちを間近で見れたし、良かった良かった。でも!ダニエル・ブルール様と写真を撮ってもらわなかったことを今でも後悔している。
おつまみを物色していたら、フランス人のジャーナリストに話しかけられた。欧州の外の人が、この映画をどう捉えたのか関心がある、と言うので、私と友人で「ユーモアがあり、とても面白かった。私は今イギリスに住んでいるが、スコットランド人がこのようなかたちで戦争に参加していたとは知らなかった。欧州の歴史事情について詳しくなく、言葉の違いもわからない日本人が見ると、どの人がどの軍なのか混乱するかもしれない。特に日本で外国の映画を上映する時は字幕をつけるのだが、字幕でその違いを表すのは難しいかもしれない。」といったようなことを言うと、彼は、近くにいた知り合いらしき人たちに声をかけ、「この人たちは字幕の仕事をしているからあなたの話を聞かせてあげて」と言われた。聞けばティトラという大会社の人たちだった。しかし私達だけでは話がもたないので、「この映画の日本公開を担当している私の友人を紹介しますわ」と彼も連れ込んで話をしてもらった。フランス人にしては、めずらしく気さくに話しかけてくる人たちだなあと思った。
午前0時半頃、私達3人はパーティ会場を出て、パーティ側が用意した車で上映会場付近まで戻る。そこから歩いて海沿いのHistory of Violence』のパーティへ。海際に立てた白いテントとその横の砂浜がパーティ会場となっていた。ベランダのテーブルの上にはキャンドル、その先は砂浜と地中海・・・ん〜ロマンチック。
History of Violence』はコンペに出品されていたデービッド・クローネンバーグの新作。監督は80歳とは到底思えない若々しさだった。そして主役のヴィゴ・モルテンセン!テント前のスタンドテーブルの横に立って、入れ替わり立ち替わり声をかけにくる人々と挨拶を交わしている。意外なほど細身で、口ヒゲをはやしていて、そして無表情だった。ぬぼーっていう音が聞こえてきそうな佇まいだった。『ロード・オブ・ザ・リング』では粗野な感じだったのに。スペインの闘牛士が着るボレロ風のジャケットが印象的。聞けば演技以外にも詩を書いたりするのだそうだ。総合的に見て、ちょっとエキセントリックな感じとでも言おうか。そして何よりも驚いたのは、かなり老けていたこと。『ロード・オブ・ザ・リング』ではリブ・タイラーの恋人なのに。映画で見る俳優はメイクで相当に作りこんでいるということを実感。いや、ほんとに。妻役のMaria Belloも少し距離をあけてお顔を拝むほうが、シワがわからなくていいかも、という感じ。
実は、ヴィゴ・モルテンセン演じる『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴン王がけっこう好き。だからこのパーティに入ることができると知って、ヘラルドの友人に「一緒に写真撮らせて〜!」と懇願していた。
友人はタイミングを見計らって声をかけ、私を紹介してくれた。「おめでとうございます」と言うと、ほとんど聞き取れないくらいの小声で「ありがとう」と言って、握手をしてくれた。そして記念撮影!やったー!老けててもオッケー!(超失礼)
午前2時頃、会場を後にした。友人が泊まるホテルまでぶらぶらと歩いた。大学を卒業して11年。11年後にこのような場所、このようなシチュエーションでこの3人が集まるとは、思いもしなかった。歩きながら、そのありがたみをかみしめた。