スピタルフィールズからテートモダンまで

塩 オリコ

☆今日の写真は、ショーディッチShoreditchのとある建物の窓。外に向かって『塩 オリコ』の看板が(写真中央。見づらいかな)。なつかしい。でもなぜここに。

画家の佐原和人さんとガールフレンドのアヤさんにお会いした。佐原さんたちは今月前半のパリでの個展を終えて、帰国途中にロンドンに立ち寄られたところ。
29歳の新進気鋭のアーティスト・佐原さんは、同じく新進気鋭のアーティスト・永岡大輔さんと松本力さんのチームで、去年ロンドンのハックニーにあるRockwellThe Rockwell Project | Rockwell was an artist run project space in Hackney that ran from 2003 to 2007というギャラリーで三人展をなさっている。その時見に行ったのがご縁で、今回もわざわざ連絡を下さった。
リバプール駅Liverpool Stで待ち合わせ、スピタルフィールズ・マーケットSpitalfields Marketの屋台で昼食後は、近くのサンデーマーケットやブリック・レーンBrick Lane一帯を散策、場所を移してテート・モダンTate Modernのカフェで休憩した後、ビッグ・ベンBig Benを間近に見に行き、最後はコベント・ガーデンCovent Garden近辺のパブで夕飯。昨日より寒くなってしまった気候の中を、ずーっとおしゃべりしながら、けっこう頑張って歩き回ったものだ。もちろん途中でバスや地下鉄も使ったけれど。
パリではどうも散々な目に会われたらしい。パリ到着直後、色々大事なものを一式入れたリュックがあやしい外国人に盗まれた。パスポート、航空券、お仕事の情報全部が入ったPC、日本円の入ったお財布・・・!なんとお気の毒な。そして、そういう困っている時のフランス警察の薄情さ(というか、やる気のない仕事ぶり)に対する腹立ちと呆れは想像に難くない。佐原さんもアヤさんも今日は穏やかに笑って「一から出直します」なんて言っているけれど、さぞ困られたろうと思う。その上、ちょうど会期と重なってしまった交通機関のストや大寒波の影響で、お客さんの出足はいまいちだったようだ。
しかし。パリでの出足が良かろうと悪かろうと(もちろん良いに越したことはないが)、佐原さんの作品はとても素晴らしい。落ち着いていて、雑なところが少しもなくて、色彩が絶妙。何気ない都会の風景でも、その場所に対する愛情がちゃんと伝わってくる。拙い語彙ではその感動を説明することができないが、佐原さんの作風を私はとても好きである。
そもそもの出会いは、昨年日本を出発する間際、原宿にある着物ショップに立ち寄ったことから始まる。イギリスに行ったらお着物を着たい、でも高級なものはお手入れも大変だから、普段着のようなお着物を気楽に着て、日本女子の本領を発揮したい(?)という夢を見ていた私は、雑誌『KIMONO姫』を読み、たまたま行きつけの美容院近くにお店があることを知り、訪ねてみた。初めて足を踏み入れるその着物ショップで、応対してくれた親切な店員さんに、今度ロンドンに行くので・・・と話をしたところ、彼女のボーイフレンドがアーティストであり、秋にロンドンで個展を開かれるということを教えてくれた。結局お着物は買わずじまいだったけれど、その店員さんはボーイフレンドの別の個展のハガキと名刺を渡してくれた。すぐに忘れることだって十分あり得たと思うが、そのハガキの絵が妙に印象に残り、以来ロンドンでの個展のことがずっと気にかかっていた。佐原さんのウェブサイトで詳細を調べ、ハックニーという、よほどのことがなければ女一人では行かないエリア(ロンドン北東部、治安が良くないと言われている。しかし家賃が安いことからアーティストの多いエリアでもある)へ若干緊張しながら赴くと、会場には物静かな日本人の若者がふたりいた。それが佐原さんと永岡さんであり、ふたりは、それはそれは丁寧に、そして辛抱強く、作品の解説をしてくれた。私はそれまで漠然と、年若いアーティストといえば、社会の枠に捕らわれることを嫌っていて、何かギラギラしたものを持っていて、それが外見や服装にも現れているような人を想像してしまっていた。今思うと、かなりお粗末な固定観念である。しかし佐原さんと永原さんに会って本当に感心した。なんと常識的で、控えめで、でもしっかりした考え方を持っている若者だろう。ある意味老成しているとすら言える。仕事上でも、一個人としても、ぜひこういう人たちを応援したいと思った。
そして、あの着物ショップの店員さんが、佐原さんのガールフレンドのアヤさんだった。あの時、着物に関心を持っていなかったら、あのお店に行かなかったら、お店に行ってもアヤさんがお休みだったら、佐原さんの作品も、ロンドンでの三人展のことも、まったく知らずにきたかもしれない。そう考えると、人との出会いは本当に不思議だ。神様の采配に感謝したくなるのはそういう時。これからも佐原さんたちを応援してゆきたいと思う。
佐原和人さんのウェブサイト→web-sahara.com

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