日本の演劇についてイギリスで学ぶ

Patisserie&Boulanger

☆今日の写真はもうひとつパリつながりで、St Sulpice教会の近くにあったヒジョーに美味しそうなパン/お菓子屋さんの店頭のスナップ(小さすぎて見づらい点お許しください)。地元の人が多そうな行列に意を決して並び、手に入れたクロワッサンやタルト・シトロンがこの上なく美味!フランスって良い国だなあと思ってしまった。


職場の国際交流基金ロンドン事務所で、
Japanese Performing Arts: Here, Then and the Future
Japanese Theatre from Modern to Contemporary and its Prospects
ウェブサイトはこちら→http://www.jpf.org.uk/whatson.html#performingarts
という連続講座が始まった。私も資料配りや会場整理などの裏方を務めつつ、しっかりお話を聞く機会に恵まれた。
初回の昨日のテーマはJapanese Theatre: From Modern to Contemporary, and its Prospects。Brian Powell先生が中世の歌舞伎から1970年代のアングラ時代まで、谷岡健彦先生が1980年以降の演劇シーンの特徴について講演された。
Powell先生の話の巧みさには正真感銘を受けた。おかげで講演開始後40分には、なんとなくではあるが歴史背景とともに変遷してきた演劇の姿に輪郭を持たせることができるようになったほどだ。海外でこのようなイベントに参加して時々感じるのは、日本にいるとかえって知らないことを海外で初めて学ぶ、そのパラドックスの不思議さ(あるいは自分の無知に対する反省)である。ちなみに上記のウェブサイトに掲載しているPowell先生の近影は、先月オックスフォードに出張した私が撮影したものである。残念なことに私の腕前には限界があったらしく、実物のほうが優しそうで素敵である。
谷岡先生の講演では、部分的に知っていた、あるいは聞いたことはあった程度故に頭の片隅に散らばっていた劇団の名前や劇作品が、きれいに整理されてゆく快感を味わった。また事例としてビデオで見た舞台の解説もたいへん的確であった。谷岡先生は主としてイギリス現代演劇の日本語訳を多数手がけられている。お若いながら外国語で直接発信できる人材は貴重であると思った。
このシリーズは、芸術担当の同僚が渾身を込めて企画したもの。しかし彼女は本番1週間前からインフルエンザで倒れてしまい、直前の準備を監督できない歯がゆさを味わっていたのではと思う。当日はフラフラしながらも出勤し、講演会では体調不良なんて億尾にも出さずにしっかり進行を務めていた。彼女のバイタリティと明るい人柄に感謝。

ロンドンでは様々な文化交流や経済関係の団体、大学などが、日本に関する実に様々なイベントを行っている。美術に関するアカデミックな会議、建築について日英の建築家を招いての講演会、最近の作品から著名な監督の特集までバラエティに富む映画上映、日英のNPOの交流事業、etc、etc・・・。イベントが多すぎて全部把握しきれないし、では自分たちがやるべきものでかつ他と競合しないものは何なのか、考え込んでしまうこともある。
著名な演出家の舞台を持ってくるとか、ひとりの演奏家を紹介する個別の機会は、それはそれでとても大事な仕事であるし、そういった事業を積み重ねてゆくことにより、じわじわと日本の存在が浸透し、固定ファンを作ってゆくことにつながると思う。
ただし、日本の特定の分野に関して、いわば入門書を読み解くようにして俯瞰し、系統立てて把握する機会を作るという取り組みは、ありそうなのにあまりなかったことのように思う。「知っている人」は日本の我々が足元にも及ばないほど恐ろしいくらい知っているが、「知らない人」は本当にまったく知らない。そのような二極化された状況の中で、「知っている人」の裾野を広げたい、「知らない人」に向かって手を伸ばしてゆきたいという意味で、入門講座的取り組みは実はとても重要だと思う。そして今回は、日本の演劇を総合的に知るということを狙っており、全部受講し終わったら、演劇史、それぞれの時代の特徴と代表する劇団や演出家、最近の傾向まで、日本の演劇をひととおり知っている『プチ専門家』が出来上がっている・・・はずである。
演劇の基礎知識をさらったところで何が面白いのか、と思うなかれ。毎回違う講師を迎え、それぞれの経験に即した知識をあますところなく語ってくださるのだが、この講師陣が実に個性的で話上手なのである。ビデオなどで実際の舞台の様子も色々見ることができて、まさに美味しいとこ取りができる。別に大して関心ないしー、と思っていても、いつのまにか話に引き込まれてしまうこと請け合いである。次回は体験型授業。日舞のレクチャー&デモンストレーションが3月に開催される。